マンガ「たんぽぽ城のお姫さま」
三田市から国道176号線を通って神戸市に入ったあたりの地域を「道場町(どうじょうちょう)」と言います。昨年、この道場町でかつて丹波猿楽の八子大夫が勧進猿楽の興行を行ったことをマンガで紹介させていただきました。
それから約100年後の話。道場町にも戦国時代がやってきます。現在の神鉄道場駅のすぐ東にあった城は、地名から「道場城」、または城主の名字から「松原城」などと様々な名前で呼ばれてきましたが、多くの呼び名の中でも、とても印象的な別名があります。
「たんぽぽ城」(漢字表記だと「蒲公英城」)です。
このたんぽぽ城の名前の由来として、一つの伝説が伝えられています。例年通り、漫画家の富士山みえるさんにお願いして、マンガにしていただきました。
このマンガの元にしたのは、城址におかれている案内板の記述でした。
別名たんぽぽ城と言う。たんぽぽは「つづみ草」とも呼ばれ、城主の娘が鼓の名手であったことによる。
城主松原氏は三木の別所氏に味方したため、織田信長軍の秀吉に攻められ、天正七(1579)年に落城した。この麓の道場川原村には、秀吉にまつわる古文書や、「太閤水」や「巻取りの飴」などの伝承が多い。
神戸市北区役所・道場町連合自治会
『新版 ひょうごの城』(神戸新聞総合出版センター、2011年)にある、「蒲公英城」(執筆は橘川真一氏)にも、「地元の伝承では、鼓の上手な姫君がいて、毎夜、ぽんぽんぽんという美しい鼓の音が近くの村にきこえてきたので、たんぽぽの城と呼んだという」という短い記述がありました。
少し古い書物を探すと、江戸時代前期の元禄14年(1701)に刊行された『摂陽群談』は、「たんぽぽ城」の由来を以下のように記します。
城下に山河の流れあり。岩にせかれて落る水、鼓の鳴に似たりとて、時の人たんほゝの城と云号たると云へり。
城内にあった滝の音が鼓が鳴る音に似ていることが「たんぽぽ城」の由来とされています。
約100年ほど後の、寛政8年(1796)に刊行された『摂津名所図会』では、城の歴史についてはより詳しくなっていますが、名前の由来についてはほぼ同じ記述となっています。
結局「たんぽぽ城」の名前に関する、正確な由来ははっきりしません。ただし鼓が何かの形で関わっていることは間違いないようです。ここでは、文献では確認できないものの、地元の伝承ということを大切に、お城のお姫さまの鼓が由来、という話で組み立てた形としました。