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TTR能プロジェクト京都公演 能《蝉丸-替之型》感想

TTR能プロジェクト京都公演《蝉丸》

先週、12月21日(土)に京都・金剛能楽堂で開催された「TTR能プロジェクト京都公演 能《蝉丸-替之型》」を拝見しました。この記事は、公演の感想ですが、あまり能をご存じではない方向けに、簡単に《蝉丸》のあらすじを以下に記させていただきます。

延喜の帝の第四皇子である蝉丸の宮(ツレ)は、幼少のころより盲目で、そのために帝は、清貫という侍臣(ワキ)に命じて逢坂山に連れて行かせ、そこで剃髪の上、捨てさせます。蝉丸は前世からの報いとあきらめ、今ではたった一人だけ同情してくれている源博雅の三位(アイ)が用意した藁屋に住み、琵琶を弾いて心を慰める。

一方で、蝉丸の姉・逆髪の宮(シテ)は、髪が逆立つ病の上、心も乱れ、諸方をさまよい歩いた末に逢坂山にたどり着く。ただたま蝉丸の琵琶の音を耳にした逆髪は、弟と知って手を取り合い、互いに身の不幸を嘆き悲しむ。やがてまた立ち去る姉の後姿を、蝉丸は見えぬ目で見送るのだった。

『百人一首』にある蝉丸の和歌「これやこの行くも帰るも別れては知るも知らぬも逢坂の関」などを踏まえて作られた、至上の生まれを持ちながら、かえって蔑まれる身となった姉弟を描いた能です。

しかしながら、私は今まで、能《蝉丸》の舞台を何度か見てきたものの、正直なところ、仕舞として稽古を受けたこともある、逆髪が彷徨う部分(道行)に親しみがある程度で、それ以外にほとんど感想も抱けないでいました。

その理由はいろいろあるかと思いますが、第一に古い説話では雑色(皇族・貴族のもとで働く下男)であった蝉丸を天皇の皇子として、それも後世「延喜の聖代」と理想化されて語られた醍醐天皇の時代にあえて設定した「作り物感」が鼻につくからかもしれません。

しかし、今回の舞台では、初めて舞台上で生きた物語として見ることができたのです。《蝉丸》という能がどういう舞台か俯瞰して見られたというべきでしょうか。つまりは単純に、私の今までの《蝉丸》の読みが弱かった、ということでしょうが、ようやく巡り合えた堪能できる能《蝉丸》の舞台でした。

それを論として、うまく記すことは私にはできませんが、どういうあたりを面白く感じたのか、とりとめはありませんが、以下に箇条書きにさせていただきます。

感想

・蝉丸がワキ清貫に対して「されば父帝も、山野に捨てさせ給ふ事。御情なきには似たれども」という場で、蝉丸は清貫に向いていた顔を、正面に外します。そのことで、蝉丸は清貫に語っているのではなく、捨てられた理由を自らに言い聞かせるかのように見えました。能によくある普通の型だとは思うのですが、また蝉丸を演じた大槻文藏さんの得意とする、人間性の表現だとも確かに感じました。

・清貫は「かかる叡慮は何と申したる御事やらん」と言って、捨てられる蝉丸のことをしきりに悲しむ。しかしながら、これは”父帝の勅命だから仕方がないのです”と蝉丸と自分自身に言い訳をしているようにも感じました。清貫が他人行儀だからこそ、蝉丸の悲劇が生きるつくりなのだと思います。これも清貫を演じた福王茂十郎さんの芸の上の表現でしょう。

・片山九郎右衛門さんが演じる逆髪は、黒頭をつけると聞いたので、狂女であることを強調したボサボサの感じかと思いきや、かなり小さな黒頭で、むしろ可憐さが引き立つように見えました。九郎右衛門さんの小柄な体格から女性らしさ、不思議な色っぽさを感じる中で、小鼓・大鼓の二人が奏でで、高いものの高すぎないテンションが絶妙でした。

・逆髪と蝉丸の姉弟は出会い、そして何も生み出さずに別れていく物語です。謡が終わった後も、大槻文藏さんの蝉丸は、幕まで杖を丁寧について歩き、確かに”演技”をしていました。元々狂乱してさまよっていた逆髪はともかくとして、蝉丸は一体どこに行くのでしょうか。分からないものの、考えずにはいられない瞬間でした。

・間狂言をつとめた小笠原匡さんの演技も良かったです。今、関西にいらっしゃる狂言方の中で、指先まで気の通った芸の緻密さは、小笠原さんが群を抜いていると感じています。知人に、小笠原さんの芸を「暗い」と言った方がいて、確かに陽よりは陰のほうが勝る芸だとは思いますが、今回の《蝉丸》のような、全体に凄惨で、でも丁寧に描く必要がある演技には最も似合う狂言方だと改めて感じました。

・この公演を主宰した「TTR能プロジェクト」は小鼓方・成田達志さんと大鼓方・山本哲也先生によるユニットです。それだけに主催公演は、大小鼓が栄える曲が選ばれるように思います。主催公演だからこそ、お二人の技量がますます冴え渡って見えているのかもしれません。ともかく能楽の大小鼓ってこんなに良いものなんだ…と改めて感じる公演だったなぁ…と、未だに脳内でリフレインしています。

TTR能プロジェクト京都公演
能《蝉丸-替之型》

令和元年(2019年)12月21日(土)
於・金剛能楽堂

シテ(蝉丸):大槻文藏
シテ(逆髪):片山九郎右衛門
ワキ(清貫):福王茂十郎
ワキツレ(輿舁):福王知登、中村宜成
アイ(博雅三位):小笠原匡
笛:竹市学
小鼓:成田達志
大鼓:山本哲也
後見:赤松禎友、武富康之
地謡:梅若実、河村和重、山崎正道、味方玄、齊藤信輔、今村哲朗、大槻裕一、山田薫

この記事を書いた人

朝原広基

「能楽と郷土を知る会」会員。ネットを中心に「柏木ゆげひ」名義も使用。兵庫県三田市出身・在住。大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜となる。能楽からの視点で、歴史の掘り起こしをライフワークにすべく活動中。詳細は[プロフィール]をご覧ください。

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