面からたどる能楽百一番
能面・狂言面から能や狂言の演目を紹介した本。ほぼ見開きの2ページに1曲の割合(曲によっては4ページ)で、「ストーリーと観賞」および「面からのポイント」といった文章が約半分。残り半分が面や面をかけた実際の演技の写真です。
演目は五番立のジャンル別に載っているので、本の中程には三番目物(鬘物。女性を主役とした能)に使われる女性面がこれほどか、というぐらい掲載されています。
無表情の代名詞にされることもある能の女性面ですが、ページをパラパラとめくりながら見比べると、微笑んでいるもの、悲しんでいるもの、恨めしそうなもの、冷たく凛としたものなどその表情の豊かさに気付かされます。
また面にポイントをおいた本であるために、珍しい面が使われる稀曲が紹介されていたり、また能の子方は本来能面を使う役柄であっても使うことはないが、狂言の場合は《靭猿》の子方のように狂言面を用いる、といったことが書かれているのも面白いです。狂言面は《清水》や《伯母が酒》で太郎冠者が鬼に変装するために使う「武悪」など、扮装の小道具としての性格がより強いのでしょうね。
ただ「面からのポイント」では、「ツレは小面などでツレの分を守ります」や「各流儀が大切にしている若い女面を使う演出……すなわち、観世の若女、宝生の増女、金春・喜多の小面、金剛の孫次郎」といった表現が、何度もほぼ同一の文章で出てくることが気になりました。
能や狂言は、類型的な表現や演出を行うように進化してきた芸能ですから、仕方がないことかもしれませんが、本を最初のページから読んでいると「ああ、またか」と思う部分もありました。もっとも、能を見る前に一曲を引いて目を通すためには何度も繰り返し記す方が良いわけですが。
ともかく、これを読めば能面・狂言面のだいたいの種類と用法が分かる本といえると思います。
なお、桃山時代~江戸時代の世襲面打家の系図のところに、福井県のお菓子・満照豆の名の元になった二郎左衛門満照の名前があります。