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マンガ「鼓の瀧」

マンガ「鼓の瀧」

毎年、漫画家の富士山みえるさんにお願いして描いていただいている「三田の歴史と能楽」のマンガ。第7弾です。

今回は三田を含む「有馬郡」を舞台にした幻の能《鼓の瀧》の内容をマンガにしていただきました。舞台となっているのは有馬温泉内に現在も名所として知られる「鼓ヶ滝」です。

世阿弥の芸談をまとめた『申楽談儀』に、この《鼓の瀧》の謡い方の注意が書き残されています。少なくとも世阿弥の時代に存在し、世阿弥自身も謡っていたことは疑いありません。また、内容から世阿弥作と推定する学説も有力です。このように《鼓の瀧》は、能楽史上、大変由緒のある演目ですが、残念ながら、現在、能としての上演は行われていない演目「番外曲(廃曲)」となっています。

しかし、有馬山の夜桜を謡い上げた部分(能楽専門用語でいう「サシ」「クセ」)のみは、謡の芸を極めた人にだけ許される「乱曲(らんぎょく。流派により曲舞[くせまい]とも)」という謡の演目として、大切に伝承されています。

能としての上演は絶えても、一部のみとはいえ、謡が大切に伝承されているのは、その内容の良さ、質の高さの何よりの証拠ではないでしょうか。

能《鼓の瀧》に登場する和歌と鼓ヶ滝

能には「脇能」と呼ばれる、ストーリー性はあまり高くないものの、神霊が現れて、世の中の繁栄を寿ぐ祝言の演目があります。能楽が生まれた室町時代は戦乱が多く、決して平和ではなかった時代だからこそ、このような祝言が大切だったのだろうと思います。

この《鼓の瀧》も、『金葉和歌集』の「音高き鼓の山のうちはへて楽しき御代になるぞうれしき」や、『拾遺和歌集』の「音に聞く鼓の瀧をうちみればただ山川のなるにぞありける」といった和歌や、花の下での饗宴を詠んだ漢詩などを散りばめながら、有馬山の夜桜の見事さと、その場における神と人との交流を描いた、脇能のひとつです。

ストーリー性よりも、漠然とした風情や美しさという、大変マンガとして描きにくいものを、あえて描いていただきました。富士山みえるさんには、いろいろと無理を申したところも少なくありません。ストーリーはなくとも、1コマ1コマに込められた情報量は、実は今までで最も多いかもしれません。

能《鼓の瀧》に触れる第一歩として、ご覧いただければ幸いです。

室町時代と単純に比べることは不可能ですが、未曽有の事態となった新型コロナウイルスの感染症はまだ収まり切りませんし、ウクライナでの戦争も出口は見えません。日本国内でも、人々の生活への先行きへの不安が増すばかり。

そんな現代だからこそ、脇能で世の中の平穏を乞い祈る意味もあるのかもしれない……と、時々考えています。

マンガ「鼓の瀧」
マンガ「鼓の瀧」

※《鼓の瀧》は現在上演されていない演目のため、登場人物の設定なども、原案の朝原が想定したものが元になっており、実際の舞台がどうであったかは不明です。

この記事を書いた人

朝原広基

「能楽と郷土を知る会」会員。ネットを中心に「柏木ゆげひ」名義も使用。兵庫県三田市出身・在住。大学の部活動で能&狂言に出会ってから虜となる。能楽からの視点で、歴史の掘り起こしをライフワークにすべく活動中。詳細は[プロフィール]をご覧ください。

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